おまけ~小鉄の場合(「始まりの日」番外#3)

「合コン?」

夕飯の仕度をしながら狭霧からその件について切り出された小鉄は食器棚から二人分の皿を取り出しながら答えた。

「興味はないが・・・何でそんなことを言いだすんだ?」

鍋の火加減を見ていた狭霧はお玉を持ったまま振り返って言った。

「何でって、大学生になりゃそーゆー機会も増えるだろ。第一、雪也なんか行きたがるんじゃねーのか?」

「上様のご命令とあらば、勿論どこであろうとお供はするが・・・」

小鉄はちゃぶ台の上に皿を並べ終えると立ち上がり、狭霧のほうをまっすぐに見て言った。

「だが、俺自身については、そんな場所へ行っても時間の無駄になるだけだ。こっちにはその気がないのだから相手の女性たちにも悪いだろう」

「でも、ホラ、その場で可愛い女の子に出会って、俺のことのほうが気の迷いだと気が付く可能性も考えられるだろ」

「それは断じてないな」

即座にきっぱりと言い切られ、狭霧はかえって反発したくなった。

「そんなの分かんないだろ。実際に行ってみなけりゃ・・・」

「いや、分かっている」

迷いなく断言すると小鉄は狭霧の眼をじっと見つめて同じ否定をもう一度繰り返した。

「それはないんだ」

「そっ・・・」

何かに焦がれる者の熱っぽさを秘めた優しい眼で見つめられて狭霧は言葉に詰まった。それ以上何も言えなくなり、狭霧は鍋の様子を慌てて見る振りをして小鉄に背を向けた。その後ろから覗きこむようにして小鉄が聞いた。

「俺が合コンに行ったほうがいいのか?」

「い、いいよ。何もムリに行けとは・・・」

狭霧は鍋の中身をお玉でやたらかき回しながら答えた。後ろ向きになっているため小鉄の顔は見えなかったが、狭霧には自分の返事を聞いた小鉄がどんな表情をしているか分かった。

きっと、今、蕩けそうなくらいに嬉しそうな顔をしている。

― 結局、こいつのこーゆーとこに負けんだよなあ・・・

抵抗感がない訳じゃない。不本意だとも思ってる。だけど、どうしても拒めない。

そのことで、ずっと自分でも自分を訝しく思っていた。その理由が少しだけ分かった気がする狭霧だった。

13th hour garden

表のブログ“Nowhere Garden”には載せない記事のために新たに開設した裏のブログです。 サイト名はPhilippa Pearceの“Tom's Midnight garden”にちなんだもの。真夜中の13時に時を打つgrandfather clockからつけました。 表も裏もどちらのサイト名も、存在しない庭という意味では同じになります。

2コメント

  • 1000 / 1000

  • blue moon

    2017.03.11 00:57

    @sikasikaさん、コメントありがとうございます♪ >原作の分の狭霧くんの気持ち 剣望くんの場合、小鉄に限らず自分から積極的に動くことはなさそうなので、どうしても受け身な感じになりますよね~ この話でも、小鉄がアクション起こさなかったら、一生ただの幼なじみで終わってる気がしますw そういう意味では、小鉄の押しの一手の勝利かと(笑) >及川悠くんの件が解決したら終わり 最新号の及川くんとやじさんの様子、キタさんへヨメ(笑)申込をした人々の登場、ラストの〇〇〇との対決あたりの展開を見て一区切りかな~と思ったんですが。日光方面は千代田とは別に進行してる話なので、出羽編でも継続するんじゃないかと。もっとも、アラハバキ編でもっとちゃんと解決を見るまで話が続いても全然構わないですけど(笑)
  • sika

    2017.03.10 14:56

    blue moonさん、こんばんは♪ なんだか原作の分の狭霧くんの気持ちまで、すごく腑に落ちた感じがします(笑) 私だったら、コンプレックスを抱かせる小鉄の事をただの苦手、で終わってしまうので、どうしても幼少バージョンでしか思いつかなかったのですが、凄く納得がいったので私もいつか狭霧→小鉄で書けそうな気がしてきました(^0^* 次の日記も拝見したのですが、アラハバキ編、もうすぐ終わると思いますか…(;´Д`) アラハバキ編は、及川悠くんの件が解決したら終わり、と言う事だと思うのですが、ハーディと狭霧くんが協定を結んだトコロなので、阿曽宇鼎についても何か一段落するのかな…(正式に葵に取り込まれる、など)と思うと、まだまだ終われない気がするのですが…。うーん、キタさん、またすぐに転校してしまうんでしょうか…(^^;