The little birds in the green woods #3 (「はみだしっ子」です)
せめて午後のバイトは一本にしろというアンジーの忠告を、グレアムは結局聞かなかった。そして、グレアムは毎晩バイトが終わったあとに教会へ通うようになった。きっちり2時間ほど練習したあとでアパートへ帰ってくる。戻ってきたときのグレアムの表情は、気のせいか以前より生き生きしているように思えた。
だが、マックスはグレアムの帰りが遅くなったことで、グレアムがアパートに戻るとやたらとグレアムに纏わりつくようになった。それでも、グレアムは優しくマックスの相手をし、一日働いて疲れているだろうにそんなことはおくびにも態度に出さなかった。
アンジーはグレアムの負担を少しでも軽減してやるために、マックスとサーニンを連れてグレアムの練習をそっと覗きにいくようになった。グレアムが練習している部屋には入らずドアの外で1時間ほどグレアムのピアノを聞いたあと、気付かれないようにまたアパートに戻る。それが三人の夜の日課になった。
ピアノを弾いているときのグレアムは、普段の優しさとはまるで違う貌を見せる。ことにベートーヴェンを弾いているときなど、一種近寄りがたいような厳しささえあった。マックスでさえ何か感じるものがあるのか、ドア越しにグレアムの練習を聞くときは、おとなしくそのピアノの響きに耳を傾けるのが常だった。
何かがグレアムの中で変わろうとしている。少し前からアンジーは漠然とそんなグレアムの変化を感じ取っていた。だが、それがどういう意味を持つのか、そのときのアンジーにはまだ判然としなかった。
0コメント