The little birds in the green woods #4 (「はみだしっ子」です)
夜中に物音を聞いた気がしてアンジーは目を覚ました。隣のグレアムたちのベッドに目をやると、同じ時間に寝たはずのグレアムの姿はなく、キッチンのほうの明かりがついているのに気がついた。
アンジーは一緒に寝ているサーニンを起こさないようにしてベッドから抜け出すと、キッチンを覗いた。パジャマにカーディガンを羽織った格好のグレアムが、ちょうどコーヒーサイフォンをセットしようとしているところが目に入った。
「グレアム、お前こんな時間に何やってんだ?」
驚いた様子でグレアムが振り返る。手にはコーヒー豆の入った袋を持っていた。
「アンジー。・・・ごめん、起こした?」
「それはいいけど、お前一体・・・」
言いかけてアンジーはキッチンのテーブルの上に何冊もの本が載っているのに気がついた。
「夜中起きして読書か?どうしたんだ?この本の山は」
「下の階の学生さんに借りたんだよ。ボクが本が好きだって話をしたら貸してくれたんだ」
「学生ってあの大学生か?」
グレアムに問い返しながらアンジーは上に載った何冊かの本をパラパラと捲ってみた。小説のたぐいはなく、いずれも難解そうなタイトルがついた本ばかりだった。アンジーは本を閉じると一番上の一冊の表紙を中指で軽く弾いた。
「・・・ふーん。それで、ポルノとかには見えないんですけど、オレたちに隠れて毎晩夜中に読みたくなるほど面白いんですか?これ」
「別に隠れて読んでたわけじゃ・・・」
はからずもそう答えたことで、グレアムはこの読書が毎晩のことであることを白状することとなった。アンジーは本を元に戻すとグレアムの手からコーヒー豆の袋を奪った。
「貸せよ。オレが淹れてやる」
「アンジー。いいよ、自分でやるから・・・」
「いいから人の親切は素直に受け取るもんだ。それに、お前のその手つき、どーにも危なっかしくって見るに堪えないんでね」
「・・・どうせね」
アンジーの言葉にグレアムは拗ねた口調で返事を返すと、ふて腐れるようにテーブルの椅子に腰を下ろした。アンジーに不器用だとしょっちゅうからかわれているのを気にしているのだ。そんなグレアムを鼻で笑うと、アンジーは慣れた手つきでコーヒー豆を適量分量りサイフォンにセットした。コーヒーが抽出されるのを待つ間に二人分のカップを温める。やがてコポコポというコーヒーの沸き上がる音とともに芳香がキッチンに漂い始めた。カップに濃い褐色の液体を注ぎ、ついでに温めたミルクを少量その中に入れると一つをグレアムに渡してやる。礼を言ってグレアムがコーヒーに口をつけるのを見ながらアンジーは自分も椅子の一つに座るとカップを手にした。しばらく互いに無言でコーヒーを味わっていたが、先に沈黙を破ったのはアンジーのほうだった。
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