The little birds in the green woods #5 (「はみだしっ子」です)
「・・・なあ、グレアム。お前、最近ちょっとおかしくない?」
そう言われて少しの間黙り込んだグレアムは、カップを持った手をテーブルの上に下ろしてアンジーを見つめ返すと言った。
「・・・おかしいって何が?」
「おかしいっていうのとはちょっと違うのかもしれないけどな。とにかく何だかお前、今までとは違うだろ。バイトのことだけじゃなく、ここにきて急に色んなことに打ち込み始めたっていうか・・・」
「アンジーはボクが何かに夢中になるのが心配なの?」
からかうようにグレアムが言った。だがアンジーはグレアムのはぐらかしには乗らなかった。
「あのな。そーゆー意味で言ってんじゃねェのはお前だってわかってんだろうが。いいからさっさと吐いちまえ。楽になるぞ」
軽い口調でアンジーは言ったがその眼はいつになく真剣だった。そのアンジーの視線をしばしの間黙ってグレアムは受け止めていたが、やがて目を伏せると、手の中のカップの先を見つめるようにして口を開いた。
「べつに特別なことは何もないんだ。ただ・・・」
「ただ?」
間髪入れずアンジーは問い返した。一瞬、何かを思い出そうとするかのように視線を宙に彷徨わせてから、グレアムは言葉を継いだ。
「ただ・・・アンジー、覚えてる?半年ぐらい前かな・・・以前、何日か泊めてもらったアパートの、もぐらみたいな顔した眼鏡氏。丸顔の」
「ああ、確かエイダのことがあったちょっと前にいたとこだろ」
「そう。・・・本当のこと言うと、あのときボクは彼のことを結構信頼してたんだ。だって彼はいい人に見えたし、ボクらにも優しくて、色んなゲームをしてサーニンやマックスと遊んでくれた」
「ああ。例の“宝探し”ね」
と言ってアンジーは皮肉げに笑った。グレアムは頷いてから、
「けど、結局・・・アンジー、君が看破したとおり、彼はボクらを利用しようとしていて・・・宝探しのゲームは泥棒の予行練習だった」
そう言ってグレアムも少し笑った。だが、それは自嘲の苦さを含んでおり、すぐに止まってしまった。
「・・・あのとき、ボクはこう考えたんだよ。もしボクらが普通に親の庇護の元にいるような子供だったら、彼はやっぱり同じようにしただろうかと」
アンジーは両腕を頭の上で組むと、座ったまま反り返るようにして椅子を傾けながら答えた。
「まあ、まずありえないだろうな。営利誘拐とかならともかく、親のいるガキに手を出したってかえって自分の身がヤバくなるだけだろ。もっとも、身代金要求やらかすほどのタマにも到底見えなかったけどな」
「せいぜい利用しやすそうな子供を騙してこそ泥するのが精一杯って?・・・たぶん、それは当たっているんだろうね。だからこそ、“良い人”にも見えたのかな」
「けど、それがどうしたって?あのもぐら野郎のことがそんなにショックだったって訳か?」
椅子を傾けた格好のまま、視線だけグレアムに寄越してアンジーは聞いた。グレアムは手にしていたコーヒーカップをテーブルの脇によけ両手を組み合わせると、その上に視線を落としながら答えた。
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