The little birds in the green woods #7 (「はみだしっ子」です)


 まだ本に未練がありそうなグレアムを無理やりベッドに戻し、自分もサーニンの隣にもぐりこんだアンジーだったが、ベッドの中で目を覚ましたまま、なかなか眠りは訪れてこなかった。先ほどまでのグレアムとの会話の何かが引っかかっているのだ。そう思ったが、では何をかといえばアンジー自身よく分からないでいた。

 グレアムに本を貸してくれた大学生の事など、その手の話題が全くダメなグレアムをからかっただけに過ぎなかったから、本気でそのことを心配している訳では勿論なかった。

 アンジーはしばらくベッドの中で思いを巡らせたが、やがてそうするのも諦めて傍らで眠るサーニンを起こさないよう気をつけながらベッドの上に身を起こした。隣のベッドでマックスと一緒に寝ているグレアムは、いつのまにか眠ってしまったようでアンジーが起きたことに気付く様子はなかった。

 目蓋を閉じたグレアムの静かな寝顔を見やって、アンジーはふと初めてグレアムに会ったときに交わした会話を思い出していた。

――どうしてそんなところに寝ているの?

 サーニンと二人、疲れて行き場を無くして路上に寝っ転がっていたときだった。アンジーたちのそばを通りがかった一人の子供がそう声を掛けてきたのは。

 そのとき自分は何と答えたんだろうか。アンジーは少し考えた。確か、人の勝手だろうとかなんとか不機嫌に答えた気がする。けれど、相手は気にした様子もなく、家はないのと重ねて聞いてきた。だったらどうしたとアンジーが再び不機嫌な返事を返したとき、その相手はこう言ったのだ――

――だったらボクと一緒においでよ。ボクがきっと君たちを守ってあげるから。

 そう言った相手――グレアムの言葉を聞いたとき、アンジーは驚くというより正直呆れる気分だった。自分と大差なさそうな歳の子供のくせして何言ってやがると思ったのだ。

 だが、グレアムは真剣だった。ひどく真剣で熱心に同じ言葉を繰り返した。差し出された手を取り結局グレアムについて行くことにしたのは、グレアムの言葉を信じたからというより、その馬鹿みたいにクソ真面目な熱意に負けたからだというのが当たっているかもしれない。

――あのときと同じだな。お前は今も全然変わってないんだな、グレアム。

 出会ったときに言った言葉を、グレアムは今本当の意味で果たそうとしているのかもしれない。そうアンジーは思った。


13th hour garden

表のブログ“Nowhere Garden”には載せない記事のために新たに開設した裏のブログです。 サイト名はPhilippa Pearceの“Tom's Midnight garden”にちなんだもの。真夜中の13時に時を打つgrandfather clockからつけました。 表も裏もどちらのサイト名も、存在しない庭という意味では同じになります。

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