The little birds in the green woods #9 (「はみだしっ子」です)
それからもグレアムの夜中の読書は続いた。例の大学生からは相変わらず大量に本を貸してもらっていたが、アンジーの言葉に若干警戒心を抱くようになったのか、あまり相手の部屋に長居をしなくなったようだった。
ピアノへの打ち込みようは以前と変わらず、牧師と懇意で日曜の礼拝にも欠かさず出席する家主の老婦人がアンジーに語ったところによると、自分も玄人はだしの腕前を持った牧師が感心するほどの才能を見せているとのことだった。しかも、牧師が正式な音楽の教育を受ける気はないのかと尋ねると、弟たちの面倒を見なくてはならないからと微笑んで答えたのがまた涙を誘ったと、彼女は実際に目頭をハンカチで抑えたのだった。グレアムはああ見えて結構役者なのだ。
一つところに落ち着いた生活にも慣れ、日々はそれなりに忙しく規則正しく流れていくかに思われた。だが、アンジーの中であの夜感じた不安は消えることなく胸の底にわだかまっていた。
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