The little birds in the green woods #13 (「はみだしっ子」です)
「睡眠不足?!」
グレアムが運び込まれた病室で医者の診断の結果を聞いたアンジーは思わず叫び、慌てて口を押さえて傍らのベッドに寝かされたグレアムを見た。が、グレアムはまるで気がつく様子もなく、ぴくりとも動かなかった。医者は頷き、
「あと若干貧血気味みたいだから、それで立ちくらみを起こしたのかも知れない。倒れたとき頭を打っているから念のため今晩は入院してもらうけどね。食欲がなかったのも睡眠不足のせいだろう。まあ、今夜一晩ぐっすり眠れば明日の朝にはすっかり良くなっているよ。食欲も戻るだろう」
「はあ・・・」
アンジーは何と言ったらいいか分からないといった顔で答えた。
とにもかくにも睡眠が必要だというグレアムを一人残しアンジーが病室を出ると、部屋の外で待っていたサーニンとマックスがすぐに駆け寄ってきた。
「グレアム、どうだった?」
と真っ先にサーニンが聞いた。傍らのマックスの眼は既に真っ赤だった。
「ああ。たいしたことはないってさ。ちょっと疲れが溜まっただけだから一晩寝れば治るって」
「そう・・・良かったぁ」
サーニンが心底ほっとした顔で言った。マックスは「グレアムゥ」と一声叫ぶと病室のドアへ突進しようとした。すかさずアンジーがマックスのおでこを掴んで止める。マックスはアンジーの腕の下でじたばたとあがいた。
「アンジー!何で止めンの?!」
アンジーに額を抑えられたまま憤慨してマックスが叫んだ。アンジーはマックスの顔を見下ろすと言った。
「オメエ、オレが言ったことを聞いてなかったのか。グレアムは睡眠が必要だと言っただろうが。お前がそんな声で泣きついていってみろ、グレアムが目を覚ましちまわぁ」
アンジーの言葉にぷーっとマックスが膨れる。それでもグレアムに今すぐ会うのは諦めたようだった。しぶしぶではあったが、グレアムの病室のドアの前から離れた。
アンジーは抑えていた手を離してマックスを解放してやると、サーニンのほうを向いた。
「たいしたことなかったのに、わざわざ足を運ばせて悪かったな」
アンジーの謝罪に面食らった様子でサーニンは慌てて首を振った。
「そんなのいいって・・・だってオレ、グレアムだけじゃなくてアンジーのことも心配だったし」
「は?何でオレが?」
思いがけないサーニンの言葉に虚を突かれ、アンジーは思わず問い返していた。サーニンはどう言えばいいのか分からないといった自信なさげな調子で、
「だって、電話を掛けてきたときのアンジーの声・・・なんだか普通じゃなかった気がしたから」
「・・・お前の耳にそんな観察力があったとはね。オレが倒れたわけじゃねェんだから、大丈夫に決まってんだろうが」
「それはそうなんだけど、でも・・・」
「とにかく、オレは今夜こっちに泊まるけど、お前らはアパートに帰れよ。もう夜も遅いし」
まだ何か言いたそうなサーニンとの会話を打ち切るようにしてアンジーが言ったときだった。拗ねてアンジーたちに背を向けていたマックスが、突然「ボクもこっちに泊まる!」と叫んだ。
アンジーはあぜんとして、
「泊まるって、お前・・・グレアム寝てんだし、お前がここにいたって仕方ねェだろうが」
「いいんだもン。ボク、グレアムが起きるまでずっと寝ないで待ってるんだもン」
「そんなこと言ったって、グレアムが起きるのなんか明日の朝になっちまうぞ」
「ボク徹夜するもン!」
どうやらアンジーにグレアムに会うのを止められたことで、マックスは完全に依怙地になってしまったようだった。
アンジーがどーすんだコレという眼でサーニンを見ると、サーニンは返事の代わりに諦めるしかないよといった顔で首を振った。
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