The little birds in the green woods #15 (「はみだしっ子」です)
――しかし、サーニンにまで心配されちまうとはね。全くざまあねェな。
グレアムが倒れたことで、それほどまでに自分はうろたえた顔をしていたのだろうか。だが、アンジーは、グレアムのバイト先の店の人に呼んでもらったタクシーでグレアムを病院に運び、サーニンたちに知らせの電話を掛けたあと、何かの糸が切れたみたいに自分が全く動けなくなったことを覚えていた。しばらくしてサーニンたちが病院へ来てからも、病室の前でグレアムの診察が終わるのを三人で待っている間、ずっと泣きじゃくっていたマックスを気遣う余裕すら持てなかったのだ。自分自身の不安に耐えるのが精一杯で、サーニンやマックスの気持ちを思いやることもできなかった。そのことに気付いてアンジーは愕然とした。
未熟だ、と思う。何もかもが未熟だ。グレアムを支えることができる手が欲しいのに、年下の二人に何も心配させることのない自分でいたいのに、現実はまるで正反対でしかない自分が歯がゆかった。そんな自分自身が悔しかった。
ほとんど吸わないで半分近くまで灰になってしまった煙草を階段の上で消し、アンジーは立ち上がった。もう一度夜空を見上げる。満天の星は相変わらず美しい。明日はすばらしい青空になるだろう。
――一歩ずつ
星空を見上げたままアンジーは考えた。
一歩ずつやっていくしかないのだろう。それがたとえ自分の性に合ってなかろうとだ。キャプテンとして仲間たちを守るために、一足飛びに大人になろうとしているグレアムと同じことをしようとしてもたぶん上手くいかない。自分には恐らくグレアムとは違う役割があるのだ。
グレアムを支えること。そのために、ゆっくりとでいい、自分自身を成長させること。たぶん、それが自分の果たすべき役割なのだろうとアンジーは思った。
子供であることの限界を超えた望み。それを果たそうとするのがグレアムなら、そのためにグレアムがグレアム自身を損なうことがないように自分がその支えとなりたいのだ。急速な成長にはたぶん歪みが伴うだろう。そして、グレアムはその歪みを一身に引き受けることになる。そんなグレアムの歯止めとなるためには、たぶん急ぎすぎずゆっくりと階段を登っていくことが必要なのだ。
――ホント性に合わねェんだけどなぁ。
アンジーはぼやいた。けれど今まで見えなかった何かの方向が一つ見えたせいなのか少し気持ちが晴れたようだった。アンジーはうんと一つ大きく伸びをし深呼吸をしてみた。そうすることで身体と一緒に気持ちまでもがしゃんとする気がした。
――いつかなれるだろうか。
密やかなその思いは自分自身への問いかけだった。
いつかグレアムの意志をも包み込んでグレアムを護ることのできる人間に、自分はなることができるだろうか。
どれほど先になるか分からない。けれど、いつかグレアムにそうと気付かれないほどの自然さでグレアムを包み込むことのできる人間になることができたら。
そうなればどんなに幸福だろう。
見納めるようにもう一度だけ空に眼をやるとアンジーは星空に背を向け、建物の中に戻るために一歩ずつゆっくりと階段を登っていった。
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