The little birds in the green woods #16 (「はみだしっ子」です)
「バカ」
「・・・はい」
「ドジ」
「・・・はい」
翌朝グレアムが病室で目覚めたとき、真っ先に聞かされたのはアンジーの罵倒の言葉の数々だった。
「過ぎたるは及ばざるがごとし。やり過ぎは単なるはた迷惑です。まず己の限界を知れ・・・」
「もう、いいよ。分かったってば」
次々と並べ立てるアンジーにたまりかねてグレアムが遮った。アンジーは口に銜えていた煙草を外し、冷ややかな眼でグレアムを見た。
「お前、オレにそんなことが言える立場だと思ってんの?」
アンジーはそう言って、再び煙草を吸うとゆっくりと煙を吐き出した。
「人の忠告をさんざん無視してくださったのは、どこのどなたでしたっけね?その挙げ句バイト先でぶっ倒れるという醜態を晒したのは」
「う・・・」
一言もなしといった様子で言葉に詰まったグレアムを見てアンジーは日頃の溜飲を下げる気分だった。
ざまあみろ。少しは反省しやがれ。
やがてグレアムがわかったよ悪かったよとか何とか口の中でもごもごと呟くのが聞こえた。
「え?何だって?聞こえない」
意地悪くアンジーが問い返す。グレアムは開き直ったように片手を挙げて誓いのポーズを取った。
「申し訳ありませんでした。これからはアンジーを始め他人の忠告を良く聞き従うよう努めることを誓います」
「よろしい」
厳かにアンジーが言い渡す。グレアムが本当に誓い通りにするかどうかは今後しっかり監視する必要があると思ったが、ひとまずアンジーは矛先を収めることにした。
アンジーの糾弾が一段落したのを見て取って、グレアムはあからさまにほっとしたような顔をした。
「そういえば今朝はまだマックスの顔を見てない気がするんだけど」
「奴は熱出して寝込んでるよ」
「え?本当?」
「お前のことを心配しすぎたんだな。お前が目を覚ますのと入れ替わりにバタンだ」
アンジーの言葉を聞いたグレアムが青ざめた顔をするのを見て、アンジーはクックと笑い出した。
「・・・嘘だよ。お前が寝ている間、頑張って起きてたもんで、ついに寝不足でダウンしちまったってだけさ。今頃アパートで爆睡してるよ」
「アンジー!」
グレアムが怒って掴みかかってくるのを避けながらアンジーは笑った。
「ざまあみろ。ちったあ人の気になってみやがれ」
手が届かないとみると、グレアムは手近にある自分の手帳やら鉛筆やらをアンジー目掛けて投げつけた。
アンジーは笑いながらそれらを避け、さらにドアの近くまで逃げた。
「アンジー、グレアム、アパートのほうに・・・」
グレアムが枕を投げたとき、ひょいと身を躱してそれを避けたアンジーの代わりに丁度その時ドアを開けて入ってきたサーニンの顔面に、枕はものの見事に命中することになった。
「ご、ごめん、サーニン。大丈夫?」
慌ててグレアムが謝る。
「うん、いいけど・・・一体なに?」
サーニンは顔に当たって床に落ちた枕を情けなさそうに眺めた。その横ではアンジーが身体を二つ折りにして笑い転げている。
「アンジー、いい加減にしろよ!」
怒ってグレアムが言うと、アンジーはようやく少し笑いを収め、笑いすぎて涙の出た目を指でぬぐった。
「じゃ、オレはこれで退散するわ。一足先に帰ってマックスのお守りでもしてくらあ」
「・・・アンジー、やけに上機嫌だね。何かあったの?」
なおも笑いが止まらない様子でひらひらと手を振って去って行くアンジーを見送りながらサーニンはグレアムに聞いた。
「知らないよ!」
半ば憤然としつつグレアムが答えた。そのグレアムをサーニンは珍しいものを眺めるように見た。それから少しはにかむようにして言った。
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